物言い三昧番外編:2

高額療養費申請マニュアル

〜お役所仕事ってどんなお仕事?〜


『高額療養費制度』をご存知でしょうか。
ある月の1ケ月間に支払った医療費等が一定額を超えると、申告することでその超えた分の額が戻ってくるという、「ああ、健康保険払っといて良かった♪」と実感出来る数少ない制度です。
この度夫の入院に伴い、初めて区役所に申請に行ってまいりました。
今回はその一部始終をご報告致します。題して

『もらえるもんはもらっちゃうぞ・高額療養費Getだぜ!突撃レ

…はい、さっさと進みましょう。

用意する物は、医療費の領収書、高額医療費制度対象者(この場合は夫)の健康保険証、印章、預金通帳です。
国保ですので、管轄の区役所へ向かいます。
では『保険・年金』と書かれた窓口へ。

…誰もいません。
いや、人間は居るようなのですが、皆さん机にへばりついて、窓口に人が来ても気がついていらっしゃらない様子。教えてさしあげなければ。

「すみません」

…誰も気がつきません。
あれあれおかしいな、聞こえないのかしら。
…良く見ると、皆さんお年を召したおばちゃんばかり。まるで現役の年金受給者のようです。
もっと大きな声で呼んであげよう。

「すみません!」

…一番手前にいたおばちゃんAが、ようやく来てくれました。

A「はい」
「高額療養費制度の申請をしたいのですが、どうすればいいでしょうか?」

これならおばちゃんにもちゃんと伝わるぞ、えっへん。

A「…少々お待ち下さい」
おばちゃんA、通りかかったおばちゃんBを呼び止めました。

A「…あの、高額療養費の…何かで来られとるんですが」
…いやその、『何か』っておばちゃん。
そのままおばちゃんAは奥に消え、おばちゃんBにバトンタッチ。
早くも雲行きが怪しくなってきました。

B「あ、高額療養費の申請ですね」
「はい」
B「領収書と保険証はありますか?」
「こちらです」

どうやら大丈夫そうですおばちゃんB。
B「じゃこれに書いて、印鑑をここに押して出して下さい。マルをつける所だけ書いてもらえばいいですから」
おばちゃんB、申請用紙を取り出し、記入が必要な箇所にえんぴつでマルをつけて渡してくれました。
「分かりました」

…ええと。渡されたのはいいけれど、ボールペンがないぞ。普通窓口にボールペン置いてあるよな。目の前にあるにはあるけど、カウンターの向こう側だからこれは職員の備品みたいだし。
仕方がないので、書類記入コーナーに向かいました。 が、見ると申請用紙には保険証番号の記入欄が。いかんいかん。保険証はさっきおばちゃんBに渡したじゃないか。このうっかりさん。急いで『保険・年金』窓口へ。

…誰もいません。
目の前にはわたくしが出した領収書と保険証が、ほら手を伸ばせばすぐそこに。

ひいいいいいい!!!!!

セキュリティもプライバシーもここには存在しないようです。慌てて領収書と保険証を取り返しましたが、それでも誰も気付いていませんでした。
恐ろし過ぎます。もうその場を離れる気になれず、カウンターの向こうのペン立てに刺さっていた、備品とおぼしきボールペンを奪い取って、必要事項を書き上げました。

「すみません。これでよろしいでしょうか?」
先程のおばちゃんBは向こうに行ってしまったらしく、やって来たのはおばちゃんC。
C「はい?」

…雲行きがどんどんおかしくなっていきますが、気にせず申請用紙と領収書、保険証を提出。
C「ああ、高額療養費ね。…ええと」
おばちゃんC、記入内容を確認しています。
C「…ここは?書いてないんですけど」
おばちゃんCが指差すその欄は、おばちゃんBがマルをつけていない箇所。わたくしの緊張は最高潮に達しました。はらわたがぐらぐらいうのを抑えつつ
「いえ、そこは記入するようにはなってなかったんですが…」

ちょうどそこへおばちゃんBが戻って来ました。
B「ああ、そこはね、書かんでいいのよ」
C「えっ、そうなんですか?」

…わたくしを置いて、カウンターの向こうでプチ研修が始まりました。
研修が終わるとおばちゃんBは去り、おばちゃんCが残りました。内容確認が続きます。

…凄く遅いです。1文字につき1秒かけてます。

C「通帳はありますか?」
口座番号も念入りに照らし合わせていきます。

全ての確認を終え、領収書に『高額療養費申請済』のスタンプを押して、保険証、通帳と共に返されました。
C「じゃ、こちらで手続きをして、2〜3ケ月で口座に振込まれますので、しばらく待って下さいね」
「分かりました」

…何故でしょう。大したことやってないのに、お役所への届けはいつも疲れます。
だいたい、振込まれるのに2〜3ケ月ってあんた。
「はい、じゃ納期は3ケ月後です」なんて言ったら、普通の会社は潰れるよな。

わたくしは帰宅してすぐ『三省堂新明解国語辞典第五版』を手に取りました。



やくしょ【役所】国・地方公共団体の行政事務を取り扱う所。「お−仕事〔=形式だけをむやみにやかましく言う上に、非能率的の典型とも思われる仕事ぶり〕」



…本当にこう書いてあるのです。お役所の人は知っているのでしょうか。
でもわたくしが今から心配なのは、少なくともおそらくもう一回は、同じようなことを申請しなきゃいけないって事なのですよ。


…すっげえ嫌ー!!!


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