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2015年8月9日

「歌詞に出てくるあなたはどなた?」ということを時々考えてみます。
歌に限らず、絵を伴わない小説なんかも当てはまるのですが、こちらは困ったことに表紙や挿絵に描かれた登場人物のイメージに引っ張られてしまうことが多いので対象外。
一人称で歌われる「ぼく/わたし」は何となく歌ってる本人のイメージが拭えないのでこれも別。
結局は「受け取る側が好きにイメージすればいいじゃん」ってことになるのですけども、少なくともそれを書いている時、歌っている時に何かしら具体的なあなた像が本人の頭にあるはずなのだ、と思うのです。

さて歌詞におけるあなた。最初に意識したのはオフコースの「YES-YES-YES」でした。

君が思うよりきっと僕は君が好きで
(中略)
振り返らないで 今君はすてきだよ
僕のゆくところへあなたをつれてゆくよ

???
最初から「君」って言ってるのに最後の最後に「あなた」?
同じ女が自分の中でランクアップしたか?
それとも別人?
恋愛対象と結婚対象は別ってやつか?
それともうっかり寝言で別の女の名前を呼んだみたいなアレか?
多感な中学生のわたくしは混乱しました。
単に文字数の関係であろうと言い聞かせてみても、ではこれを書き歌っている小田和正の頭の中の「YES-YES-YESの女」はどんな姿をしているのか、1人なのか2人なのかとか色々想像していたものです。
髪は長いのか短いのかスカートなのかパンツスタイルなのかまさかの和服か化粧は濃いのか薄いのか年上か年下か、挙句の果ては「Yes-NoとYES-YES-YESの女は同じか否か」「さよならで別れた次がYes-Noの女か」と他の曲にまで妄想が及んでしまう始末。
結局結論は出ないままだったのですが、事あるごとに色んな曲に出てくる人物や背景なんかに思いを巡らせることになるのでした。
同じ曲でも歌う人によって出てくる女も違うなあとか。ハードボイルドを気取った歌詞に出てくる女豹系の女なんかは「峰不二子か全盛期の梶芽衣子くらいじゃないと無理だろそれ」って思ってしまいますし、ダンシング・オールナイトやEZ DO DANCEで踊ってるのを阿波踊りに変換しちゃうと楽しいとか、歌詞の中の女は必ずセックスする前に長い髪をほどくよねとか。
ああ、よく見受けますね「髪をほどく女」。せっかく聴き手側がイマジネーションを膨らませる大事な場面なのに長い髪、しかも束ねてる女限定。今からこいつらセックスするぞっていうのを匂わせる手法としては上手いですけども、すっかり記号化しちゃって簡単便利だからズルい。「髪をほどいて」って出た時点であーはいはいってなっちゃう。

そんなわけで、性行為を東京タワー1本で表現してしまった角松敏生は凄いなあと思うのでした。


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