物言い三昧<<<物言い一覧


2016年7月31日

小学生の頃、おばあちゃんちに何かとよくおつかいに出されていた。
たいていは日曜日の夕方。家に上がってみるとベッドに腰掛けてTVを見ているおばあちゃん。既に耳が遠かったので、私が近づいても気づかないことが多かったが。
TVはNHKの大相撲中継。ちょうどその頃大関あたりだった千代の富士が勝ったところだった。
その後もおばあちゃんちに行く度にTVでお相撲が流れていたので、お相撲は毎日夕方やっているものだと思っていたし、そのたびに千代の富士が映っていたので、お相撲を知らなくても千代の富士は知っていたし、大相撲中継は千代の富士を見るためのものだと思っていた。
お腹やおっぱいがでっぷりした「いわゆるおすもうさん」と違って引き締まった筋肉質の体。
お相撲を知らない者が見てもカッコいいと思った。
なんか記録を達成した頃には「千代の富士物語」なんてアニメ特番がゴールデンタイムで流れていたし、その反面負けっぷりも鮮やかで痛快で、当時の広島県民・安芸津町民は、千代の富士が安芸ノ島にコロッと負ける様を見ては溜飲を下げていたものであった。
勝っても負けてもとにかく絵になるおすもうさんだった。
引退会見で「体力の限界」とは言っていたものの、その筋肉質の肉体が衰えているようには見えなかった。
引退後に年寄「陣幕」を襲名した時に、親方の名前=年寄名跡てのがあるのを知ったのもこの時だし、その後に「九重」を襲名した時には、親方の名前が変わるとか、自分の師匠の名前を継ぐこともあるのかと色々混乱したものだ。
その後も九重部屋の師匠として元気に年を重ねて、昨年2015年には還暦土俵入り。現役の横綱2名を従えての堂々とした土俵入りに誰もが「ウルフ不滅説」を口にしていたものだ。
その直後に入院、後になってすい臓がんと聞かされてぞっとしたが、早期発見で手術をして大丈夫だと聞いていた。

それなのに。

2016年7月31日。
元横綱千代の富士・九重親方死去。61歳。
闘病中も弱った姿を一度も見せぬまま、現役時代の強いウルフの、前代未聞の美しい還暦土俵入りの印象だけを残して逝ってしまった。
審判部時代には色々と失礼なことも書きましたけど( 2002年2004年 )、それも現役時代のカッコよさとのギャップを楽しんでいたものということで、お許しください。
ああ、これまでの大相撲界の訃報でいちばんショックだ。
しかも自分の師匠よりも先に逝ってしまうなんて。
あまりに衝撃が強くてまだ実感がない。
いろんなしがらみのせいで、相撲協会の理事職につくことは出来なかったけど、正直そんなことはどうでもよくて、部屋の師匠として元気にメディアに出てきて、自分の弟子を何人も関取にして、ファンとしてはそれが何よりもありがたいと思っていた。

ウルフ。おつかれさま。北の湖が待っていますよ。

三段構え


<<<物言い一覧