うさぎ縦横無尽

『うさぎで一杯』web版

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第7回:寒いの。

イグアナオーナーの共通の悩みと云えば、やはり冬場の光熱費ではないだろうか。それは我が家でも例外ではない。夏は扇風機だけというつつましい生活をしていても、北風がぴうと吹き始めるやいなや、電気料金が1桁上がってしまうのである。できれば我々は、冬はこたつと布団、ひたすら着膨れしてじっと春を待っていたいのである。それがなぜ、イタリア製のデロンギオイルヒーターなんぞをを購入してしまうことになったのか。これはそのきっかけとも言えるエピソードである。

1996年12月1日、広島市内では珍しく早い時期に雪が舞った。雪にあまり免疫のない我々は、カメラを手に外へ出て、雪をかぶった愛車の写真を撮ったりして、バカまる出しではしゃいでいた。当然この日は室内も寒く、ストーブを焚き続けていないといられないくらいだった。
ところで、当時私の夫は『S.Y.U.K.』というバンドでベーシストとして活動しており、毎月1日は“月並試合”と銘打ってライヴを演っていた。そう、まさにその日だったのである。この日ばかりは私も単なる一ファンとなって観にいくのだ。
さて。まだ60cm水槽に住んでいたうさぎは、その日も良く食べ、さっさとカーテンレールに上がり、天井近くにクリップ止めしたホットスポットで気持ちよさそうにしていた。
昼過ぎ、夫がリハのため先に現地に向かい、17時頃になってさあ私も出る支度をと思いうさぎを見ると、最初の位置のまま熟睡しているではないか。ストーブは消さないといけない。水槽に移したいけど寝てるしなあ・・・。信じられないことだが私は、寝ているからという理由で、ストーブを消した部屋にうさぎを残して出てしまったのである。少し考えれば分かる事だが、人間が寝返りをうつように、寝てる間朝まで同じ位置に止まっているわけがないのだ。
何も知らないうさぎは、私が出かける時も目を覚ますことはなかった。
21時ライヴ終了。いつもならそのまま打ち上げに繰り出して午前様、ということになるのだが、この日は雪が降っていて危ないので、皆で食事をして解散となった。帰りの車の中で私はうさぎのことを思い出し、夫にそのことを言った。
「ホットスポットから動いとらにゃいいけど(そんなわけはない)」
「寝よったんなら大丈夫よ(そんなわけはない!)」
凍結した道をゆっくり走って自宅に着いたのが22時過ぎ。急いで部屋に戻って見ると、ホットスポットから1mも離れた所でうさぎが固まっていた。
ぎゃ────!!!
体は冷えきっていて黒くなり、目を見開いたまま黒目が点になっている。慌てて白熱灯で体を暖めた。死んでしまったかと思い、「うさぎ──」と半泣きで呼びかけたら眼球がわずかに動くのが見えた。落ち着いて見てみると、呼吸もして脈もある。ただしもの凄くゆっくりで。
10分程してやっと動き出したので、すぐ水槽に戻してやった。たぶんホットスポットから移動した後体が冷えて、戻るに戻れなかったのだろう。もし打ち上げに行っていたらと思うと・・・冷汗ものである。

それからうさぎ様のために試行錯誤を繰り返して、やっと今のオイルヒーターに落ち着いたわけだが、これの優れた点は、空気が汚れないことと、表面温度が低いことである(一度目を離したすきにうさぎが石油ストーブに登りかけてパニックになったことがある)。昼間のメイン暖房(30℃以上)には足りないが、夜うさぎを部屋に放したまま家を空けなければいけないときには欠かせない。家に戻ったとき、玄関の電気メーターがものすごい勢いで回っているのにはさすがに気が重くなるが、うさぎの命には代えられないのである。そんなわけで、電気料金の請求書を正視できない日々は、春までもうしばらく続くのであった。

【イグアナ通信No.8(1999年3月1日発行)掲載分】


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