うさぎ縦横無尽

『うさぎで一杯』web版

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第11回:痛いの。

自然界では痛みや苦しみを外に出すことはタブーなのだという。己の弱い部分をさらけ出した時点で、捕食者、あるいは同類からも格好の攻撃対象とみなされてしまうからである。
うちのうさぎも、然り。最初の半年ほどはまだ我々を警戒していたため、爪が取れて出血していても、何事もないかのように振る舞っていた。そんな訳でイグアナと云う生き物は、痛みを感じてもそれを表情に出すものではないと思っていたのである。
ところが。1歳半を過ぎた冬のある日、いつもの様にカーテンレールで爆睡している彼を温室に移そうとしていた時のこと。ふと気が付くと右前肢の薬指(と云うのか?)から出血している。
しまった、どっかに引っかけて爪が取れてしまったのだ。すぐに消毒を施して、温室内の寝床に移してやった。程なく出血は止まったが、うさぎからすれば、寝ているところを起こされた挙句にこの怪我。踏んだり蹴ったりとはこのことである。
さて。温室に移ったうさぎは、いつもなら「気を付け」の姿勢でおとなしく眠るはずなのだが、この日だけは少々様子が違った。怪我をした前肢を「気を付け」にせず、腕を軽く曲げてふわふわさせている。向かって右向きに寝ているので、ちょうどこちら側に怪我をした箇所を見せている状態である。
一瞬何処か骨折でもしたのかと不安になったが、そうでもないらしい。
よく見ると、眠気をこらえてこちらを見ている。
明らかに傷を私に見せびらかしているとしか思えないのである。
「ほらこれ、血ぃでてるの。ち。そんでもってね、いたいの。分かる?せっかくねてたのに、いきなりおこされて、引きずりおろされて、おまけにこれ。ほらー、赤いの分かる?血よ、ち。いたいんだってばこれ、何でこんな目にあうの、ねえ。いたいいたいいたいいたい。」(・・・訳してみたが、どうだろうか)
当てつけだ。どー考えても私への当てつけである。わざとである。とりあえず私の方としては、「申し訳ない」と平謝りするしか手だてはない。
そう、この時ばかりは本当に申し訳ないと思った。
と同時に、痛みを私にはっきりアピールしてくれたことが凄く嬉しかった。かつてあれだけ警戒していたのが嘘のようである。
ところで、うさぎに一言。
お気に入りの場所ででくつろいでいるのを無理に移動させるのは、確かに迷惑だろうが、手を差し延べた途端寝たふりをするのはやめてくれたまえ。こっちだって大変なんだから。

【イグアナ通信No.12(2001年8月10日発行)掲載分】


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