うさぎ縦横無尽

『うさぎで一杯』web版

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第9回:嫌いなもの

私の実家には柴犬がいる。
彼には嫌いなものが二つだけある。『雨』と『Xさん(仮名・女性)』だ。
雨についてはうちのうさぎの水嫌い同様、単に個体差といえば説明がつく。ところが『Xさん』に対する嫌い方は凄い。郵便配達がたまにきても、ご挨拶程度にほえるだけの彼が、それより頻繁に顔を見せる『Xさん』にだけは、それはもう噛みつかんばかりにほえたてるのである。
いや実際噛みついたか。
別に彼女が犬嫌いなわけではない。彼がいじめられたわけでもない。理由は一つ。
我々が家族ぐるみで『Xさん』をどっちかとゆーと嫌っているからである。嫌っているというのはキツいか、うっとおしがっている(もっとキツい)。悪い人じゃない、とは思うんだけど、あれで悪い人だったら洒落にならない(とどめ)。
ともあれ、狼を祖先に持つ彼にとって、家族の嫌いなものが自分の嫌いなものになるというのは、分からぬでもない。
はたして『Xさん』は、こんなにほえられるのが自分だけだと知っているのか。知ったからといって何が変わるわけもないが、そんなわけでおそらく今日も『Xさん』はほえられているのだろう。
…万が一にもこの文章を彼女が読むとは思えないが、もし読んでたらごめんなさいね『Xさん』。

さて、うちのうさぎ。
彼にも嫌いなものが三つだけある。『水』と『花柄』と『2階に住んでる大家さん』である。
まず水だが、これは我々の血のにじむ様な努力の甲斐あってか(実際かまれて血がにじんだりもした)少しずつ克服しつつある。
花柄は最近発見したが、これはもうとにかく逃げる。つぼみより開いた花のほうがより顕著だ。実は私も幼少のころ、洋食器に描かれたバラの花柄が目玉に見えて怖い思いをした事があり、何となく分かる気がする。これについては簡単、わが家の花柄は頂きもののハンカチだけなので、これをしまえば済む。つくづく花柄の少ない家庭だと気付いた。
問題は『2階に住んでる大家さん』だ(長いので以後『大家』とする)。
彼女の声がすると体をこわばらせる。
彼女の姿が見えると身をすくめる。
外で日光浴をしていたときのこと、2階から『大家』の声がしたと思うが早いか、うさぎは身をひるがえして家の中に飛び込み、更に室内を駆け抜けて部屋の隅に隠れてしばらく出てこなかったのである。イグアナが全速力で走るのを見たのはあれが初めてだろう。
先述の『Xさん』同様、我々が『大家』を嫌っているのは事実である。また『大家』が我々を嫌っているのも周知の事実である。しかしそれ以上に、うさぎは『大家』を嫌っているのだ。
しばらくして夫からあることを聞かされた。
『大家』は大の動物嫌いだったのだ。
野良猫などはもちろん、ヘビやトカゲなどはもっての他だという。
うさぎの『大家嫌い』はこれが原因なのか、あるいは声や姿が生理的に嫌いと云うこともあるかもしれない。日光浴をしても怖がって逃げてしまい、夏だというのに紫外線不足で軽いMBDになってしまった。
やはり、心静かに日光浴をするにはもはや引っ越ししかないのであろうか。
…万が一にもこの文章を彼女が読むとは思えないが、もし読んでたらごめんなさいね『大家さん』。

【イグアナ通信No.10(2000年2月15日発行)掲載分】


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